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学校側がいじめを見過ごし、児童生徒の命を救えない。責任も明確にせず、遺族の心まで踏みにじる。そんなひどい過ちを、いつまで繰り返すのか。
福岡県宗像市の東海大付属福岡高で令和3年3月、剣道部員だった2年の男子生徒が自殺した問題を巡り、県が再調査を実施することになった。同校の調査報告が不十分であると、遺族側が訴えていた。
生徒は1年のとき、剣道部で複数の上級生らから下着を脱がされ、その様子を撮影した動画を交流サイト(SNS)で拡散されるなどのいじめを受けた。顧問の教諭はその一部を把握していたのに学校側に報告せず、適切に指導しなかった。
犯罪にも等しい深刻ないじめである。それにもかかわらず同校が今年2月に公表した第三者委員会による調査報告書では、計10件のいじめ行為を認定しながら、「自殺の直接的な原因は特定できない」と結論付けた。県が再調査すべきは当然だ。
同校は生徒の自殺後も顧問に部の指導を続けさせていた。深刻さに向き合おうとしない学校側の姿勢をみる限り、部員への聞き取り調査が十分だったのかも疑わしい。県は同校の対応を含む問題点を一から洗い直して遺族の不信を解消してほしい。同校は従来の認識を改め、再調査に全面的に従うべきだ。
いじめ調査を巡っては、札幌市立中1年の女子生徒が3年10月に自殺した件でも、生徒が小学校時代にたたかれたり、「奴隷扱い」されたりした被害部分を黒塗りにした報告書を市教委が公表したため、遺族感情を傷つけるという問題が起きた。
市教委は今年2月、「再発防止などの視点が不十分であった」として黒塗りの大部分を外した報告書を再公表したが、再発防止をないがしろにして何のための調査報告か。
北海道では、陰惨ないじめを受けた旭川市立中2年の女子生徒が3年3月に凍死した事件でも、学校側がなかなかいじめを認めなかった。市教委も当初はいじめとの関連を「不明」と発表して批判を受けた。そうした教訓が生かされていない。
平成25年施行のいじめ防止対策推進法は、被害者の立場でいじめを広く捉え、学校側が組織的に対応するよう求めている。同法の趣旨を、全ての教育現場が改めて胸に刻むべきだ。
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2024年3月5日付産経新聞【主張】を転載しています